大阪地方裁判所 昭和62年(ヨ)3307号
申請人
中島昌雄
右訴訟代理人弁護士
國弘正樹
被申請人
株式会社インターメドジャパン
右代表者代表取締役
三谷直寛
右訴訟代理人弁護士
岡本太郎
主文
一 被申請人は、申請人に対し、金二八七万六五〇〇円及び昭和六三年三月から本案の第一審判決言渡しまで、毎月二五日限り月額三三万九五〇〇円の割合による金員を仮に支払え。
二 申請人のその余の申請を却下する。
三 申請費用は被申請人の負担とする。
理由
第一当事者の申立
一 申請人
1 申請人が被申請人の従業員たる地位を有することを仮に定める。
2 被申請人は申請人に対し、金八八万六〇〇〇円及び昭和六二年八月二〇日以降毎月二五日限り月額金三七万六五〇〇円づつの金員を仮に支払え。
3 申請費用は被申請人の負担とする。
二 被申請人
1 申請人の本件各申請をいずれも却下する。
2 申請費用は申請人の負担とする。
第二当裁判所の判断
一 以下の事実は当事者間に争いがない。
1 被申請人は、昭和五七年一一月一日に設立された、医療用器機器具類、衛生材料の輸出入並びに販売を営業目的とする株式会社である(本件疎明資料によると、被申請人は従業員二〇名以下の小規模な会社であることが一応認められる。)。
2 申請人は、昭和五九年一二月一日、被申請人がサール薬品株式会社病院製品事業部を全面吸収するのに伴ってサール薬品株式会社を退社して被申請人に採用され、昭和六一年一一月までは大阪営業所長として営業を担当し、同年一二月からは製品情報室長として製品管理の職務を担当してきた。
3 被申請人は、申請人に対し、昭和六二年七月一五日、職場の秩序、協調性が保てないことを理由とする解雇予告通知書を発送し(翌一六日申請人に到達)、同年八月二〇日限り解雇する旨の意思表示をした(以下、「本件解雇」という。)。
二1 被申請人は、本件解雇の理由として以下のとおり主張する。
(一) 申請人は、昭和六〇年ころから社内外において躁うつ病が原因と思われる口論、わめき散らしなどの異常行動に及ぶことが多くなった、そのため販売総代理店のセールスマンとの不調和の度合いを深め、営業員としての役割を全うすることができなくなった、社内業務へ配置換えとなってからも同様の異常行為を繰り返し、社員からの信頼もなく協調性を欠いて孤立していた、昭和六二年五月二五日、出社直後から異常な興奮状態を示し、理由もなく職場内外を飛び回り正常な社員では考えられないような非常識発言や行動を繰り返して職場内の業務を全く機能し得ないような状況に陥れた、同日、三ケ月の休職処分に処されるも反省改善の姿勢を示さずその後も職場に出てきては他の社員への迷惑行為に及んだ、として
(二) 以上の如き申請人の行為は、被申請人の就業規則所定の解雇事由である「精神もしくは身体に故障があるか、または虚弱老衰もしくは疾病のため、業務に耐えられないと認めるとき」(第一二章1―C)もしくは、「専門的能力又は実力が非常に低いため、あるいは向上の見込みや他人の業務を妨げる行為を改める見込みが低いために現在の任務を遂行するにも配置転換するにも顕著に不適格であると判断されるとき」に該当する、と。
2 よって検討するに、本件疎明資料及び審尋の結果を総合すると以下の事実を一応認めることができる。
(一) 申請人は、昭和六一年二月ころ、過去の生活歴を分析した結果から自分には一定の周期で「うつ」の状態と「躁」の状態が反復するというバイオリズムの波があるとの考えを抱くようになり、社内の者に対して、その旨を「自分は躁うつ症である。」として語ることがあった。
(二) 申請人は、大阪営業所長当時、製品説明を要請してきた販売代理店のセールスマンに対し、「おたくのようなよう売らんところへ行くと損するからいやや。」との発言をしたことがあり、また人の誤解を招きやすい話し方をすることもあって、申請人と販売代理店セールスマンとの人間関係は円満なものとはいいがたい状態となっており、販売総代理店たる株式会社トップの名古屋営業所からは申請人を担当からはずして欲しい旨の話しが出たこともあった。
(三) 申請人は、社内業務に移った昭和六一年一二月以降においても、部下の指導にあたっても適切な言葉を欠き誤解を招くこととなったり、接待の席上相手方に対し不用意な冗談を言って感情をそこなわせたり、入社間もない女子薬剤師に対する業務上の交信文に「付属幼稚園内粟井美里ちゃん」と宛名書きして社内でひんしゅくを買うことがあった。
(四) 申請人は、昭和六二年五月二五日、沖縄旅行から帰って出社し、沖縄で購入したわら草履にはきかえて土産の抱瓶を使用方法を示すために自ら腰につけて歩くなどしたり、申請人の個人的な取引に関して銀行員を職場に呼びつけきびしい口調でその不手際を追及したり、職場出入口付近で隣りの会社の扉に接触したことから構造上危険があると感じて隣りの会社の代表者及びビルの管理人に対し直接安全対策をとるよう申し入れたうえ、廊下の床にガムテープで危険部分を表示したりし、荒らっぽい口調で何か言いながら無闇に自分のまわりの整理整とんを始めたりという行動をとった。被申請人代表者は、申請人には就業規則第一二章1―Cに該当する事由ありとして、同日、申請人に対して三ケ月の休職命令を出した。
(五) 申請人は、同月二六日から二八日までは休職中の業務代行についてのメモ作成、私物整理等のため、六月一九日には健康保険手続のため出社したほかには、郵便物等の受領のため一、二回被申請人の許可を得て職場に立ち入ったことを除いて職場に出て行ったことはない。
3 以上の疎明された事実に基づいて判断するに、申請人が躁うつ病であるとの点並びに申請人が社内外においてわめき散らし等異常行動に及ぶことが多かったとの点については疎明がないのであって、右疎明された事実をもって、被申請人が1(一)で主張する如くであったものと評価することはできないというべきであり、結局、就業規則第一二章1―Cの解雇事由の存在については疎明がないというべきである。
次に、被申請人は小規模の会社で社員相互間のまとまりが強く要求されるものであること、その中にあって申請人は、その言動が誤解を招きやすいものであることから取引先及び社内にあって人間関係での摩擦が生じ、職務(特に営業担当)においていきず(ママ)まっていた面がないとはいえないことは窺われるものの、職務不適格性に関する就業規則第一二章1―Dは、その事案が重篤な場合のみを解雇事由として定めているのであって、疎明された事実をもって被申請人が1(一)で主張する如くであったものと評価することができないこと前同様であって、結局、就業規則第一二章1―Dの解雇事由の存在についても疎明がないというべきである。
してみれば、本件解雇は理由がないのになされたものとして無効であることとなる。
三 本件疎明資料によれば、申請人は賃金を唯一の生計の手段とする労働者であること。申請人は昭和六二年六月一六日に離婚しており(子の親権者は相手方と指定)、離婚に伴う相手方への給付、自分の引越等の出費がかさみ貯金も残り少なくなっていること、従って、このまま本案訴訟の結果を待っていては回復困難な損害をこうむるおそれがあることが一応認められ、賃金の仮払の必要性があるというべきである。
そこで仮払の限度につき検討する。申請人の賃金は、基本給三一万四五〇〇円。役職手当一万五〇〇〇円、扶養手当四万四〇〇〇円、住宅手当二万五〇〇〇円の合計三九万八五〇〇円であったことは当事者間に争いがない。右のうち、扶養手当は現に扶養する家族を有していることに対して支給されるものであり、役職手当は現に担当する管理職務に付随して支給されるものなのであるから、申請人にあっては、生活補償給として仮払の必要性が認められるのは基本給及び住宅手当分合計三三万九五〇〇円だけにとどまるというべきである。次に一時金(いわゆる賞与)の仮払の点につき検討する。申請人は、被申請人より、昭和六〇年七月に支給される上期賞与として一六〇万六〇〇〇円、同年一二月に支給される下期賞与として一六三万七五〇〇円、昭和六一年度は、上期二一〇万四七五〇円、下期二二一万二三〇〇円の各支給を受けていたこと。昭和六二年上期賞与は四四万三〇〇〇円であったことは当事者間に争いがなく、本件疎明資料によれば、被申請人においては、賞与については年間月額給与の六か月分を上期下期均等に各三か月分としてこれに業績考課を加えて支給するという方針が慣行的な算定基準として定着していたこと。昭和六一年一一月から翌六二年一〇月までの間の被申請人における業績は前年同様順調なものであったことが申請人に支給された昭和六二年上期賞与は月額給与の一か月分を基準としたものであることが一応認められる。してみれば、申請人は被申請人に対し、右支給基準に照らして支給されるべき賞与との差額八八万六〇〇〇円の請求債権を有するというべきである。ところで、賞与は賃金の後払的性格を有し、賃金生活者は、賞与金を年間の生活設計上不可欠の収入として予定し日常の生活費の赤字補てんの意味を持つものであるが、必ずしもその全額がこれに充てられるとは即断できないのであって本件にあっては諸般の事情を考慮して五〇万円の限度で仮払いの必要性を認めることとする。
なお、本件にあっては、賃金等の仮払いを命ずる以上に雇用契約上の地位を保全すべき必要性について疎明がないというべきであり、また、賃金仮払いの必要性は、本案の第一審判決言渡しのときまでの限度で認められるにとどまる。
四 以上によれば、申請人の本件申請は、主文第一項の限度で理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容し、その余は理由がないから却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 齋藤大巳)